フランスの歴史家、エマニュエル・トッド。ウィキペディア
パリ政治学院を卒業し、ケンブリッジ大学で歴史学の博士号を取得したフランス人政治家・学者。1977年から1984年まで、フランスの新聞「ル・モンド」の文芸批評家として活躍した。その後、フランス国立人口統計研究所に勤務。
【フリーウエストメディア】2023年1月4日
フランスの社会学者、歴史家、パブリシストのエマニュエル・トッド氏が、スイスの週刊誌のインタビューで、現在の東西対立の中間評価について語った。
また、米国の指導の下で主権がほとんど消滅したドイツの状況についても詳しくコメントした。
ワールドウォーシュから全体的な評価を求められたトッドは、まず、米国は多くの点で衰退しつつあり、一方、ロシアは西側メディアの報道が示唆するよりもうまくいっていると指摘した。
トッドによれば、「米国はアフガニスタンとイラクから撤退した。イランの台頭を止めることができなかった。中国のそれと同じように。サウジアラビアは、もはや米国をまともに相手にしていない。アメリカでは、死亡率が上がり、平均寿命が下がっている。すべての新聞が書いている:西側は正常で、プーチンは正気ではない。ロシア人は血に飢えた怪物である。人口統計はそうではないと言う。ロシアはより安定し、社会はより文明的になっている」。
欧州は、今回の紛争で特に残念な立場にある。
実質的に無防備で、その上、方向性も定まっていない。「地政学的な思考を失っている。
アメリカの攻撃的な戦略とロシアの防御的な戦略の間で、ヨーロッパ人は息を呑むような精神的混乱に陥っている」。
特にドイツは、自分たちが米国に守られているという幻想から目覚めなければならない。
米国は、自国の産業を安価なロシアのガスに依存し、ロシアとの和解を目指したベルリンを許していない。
「この和解に反対する戦いが、アメリカの戦略の優先事項となったのである。アメリカは、ガス協定を破談にしたいことを常に明言していた。NATOの東欧への進出は、ロシアに対してではなく、ドイツに対してが主な目的であった。アメリカに安全保障を委ねていたドイツが、アメリカのターゲットになったのだ。私はドイツに同情している」。
その上、ドイツ人は「ノルドストリームが、アメリカによって破壊されたことをよく知っている。アメリカ、イギリス、ポーランドによる共同軍事行動によって。ドイツに対して。しかし、彼らはそれを知ることができない」。
このような背景から、2002年に注目された米国への「追悼文」を捧げたトッドは、ショルツ首相下のドイツの中国政策を、独立したドイツの政策の最後の領域のひとつとみなしている。
「ショルツは北京に出張した。ドイツは中国との縁を切ることを拒否している」。
ヨーロッパ全体が今、アメリカの支配を強めて来ており、その壊滅的な人口動態にも悩まされている。
しかし、ロシアでさえ、西側の「価値観」を拒否しているとはいえ、人口動態的に良い状態にはない。
「ウクライナでは互いに戦争している。このままでは、みんなが損をする」とトッド氏は警告する。
■■ アメリカ帝国の崩壊を予言
1976年、25歳のとき、乳児死亡率の上昇などの指標からソ連の崩壊を予言し、注目を浴びる。1976年、25歳のときに幼児死亡率の上昇などからソ連の崩壊を予測した『最後の崩壊-ソ連圏の解体に関するエッセイ』を発表し、注目を集めた。
後の著書『帝国以後』では 2001年)において、トッドは、経済、人口統計、イデオロギーなどの多くの指標から、米国が唯一の超大国としての地位を失いつつあること、また、世界の他の多くの国々が予測よりもはるかに急速に「近代化」(出生率の低下など)しつつあることを論証している。
トッド氏は、アメリカの基本的な弱点を概説し、アメリカの常識に反して、アメリカは経済、軍事、思想の面で世界の舞台で急速にその支配力を失いつつあると結論づけた。
トッド氏は、米国の外交政策の多くは、米国の冗長性を覆い隠すためのものであると主張し、議論を呼んだ。彼の分析によれば、プーチンのロシアは、今日の世界において、おそらくアメリカよりも信頼できるパートナーとして浮かび上がってくる。
2002年末、彼は、世界は1970年代のソ連と同じ過ちを繰り返そうとしていると考えた。
すなわち、米国の軍事活動の拡大を、その力が増大していることの表れと誤解し、実際にはこの攻撃は衰退を隠しているのだと。